あづさ弓/梓弓(文学史・本文・現代語訳・解説動画)

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今回は『伊勢物語』の「芥川」を解説します。

文学史

作者

未詳

成立

10世紀中ごろ

ジャンル

歌物語

内容

全125段。在原業平(ありわらのなりひら)だと思われる主人公の一生を綴った一代記風の物語。日本最古の歌物語。多くの段で「昔、男ありけり。」から書き始められる。

本文

昔、男、片田舎に住みけり。
男、

「宮仕えしに。」

とて、別れ惜しみて行きけるままに、三年来ざりければ、待ちわびたりけるに、いとねんごろに言ひける人に、

「今宵あはむ。」

と契りたりけるに、この男来たりけり。

「この戸開けたまへ。」

とたたきけれど、開けで、歌をなむよみて出だしたりける。

あらたまの年の三年を待ちわびて ただ今宵こそ新枕すれ

と言ひ出だしたりければ、

あづさ弓ま弓槻弓年を経て わがせしがごとうるはしみせよ

と言ひて、いなむとしければ、女、

あずさ弓引けど引かねど昔より 心は君に寄りにしものを

と言ひけれど、男帰りにけり。
女、いと悲しくて、しりに立ちて追ひ行けど、え追ひつかで、清水のある所に伏しにけり。
そこなりける岩に、指の血して書きつけける。

相思はで離れぬる人をとどめかね わが身は今ぞ消え果てぬめる

と書きて、そこにいたづらになりにけり。

現代語訳

昔、男が片田舎に住んでいた。
男は、

「宮中に仕えに行ってくる。」

と言って、女と別れを惜しんで行ったまま、三年間帰って来なかったので、女は待ちわびていたが、その頃たいそう熱心に言い寄ってきた人に、

「今夜、会いましょう(結婚しましょう)。」

と約束してしまったところ、その日にこの男が帰って来た。

「この戸を開けてください。」

と帰って来た男がたたくけれど、女は、戸を開けないで、歌をよんで(外にいる男に差し出したのであった。

三年もの間、あなたの帰りを待ちわびておりましたが、ちょうど今夜、別の男の人と初めて枕を交わすことになったのですよ。

と詠んで差し出したので、

幾年月にもわたって、私があなたを愛してきたのと同じように、新しい夫を愛して暮らしなさい。

と言って、去って行こうとしたので、女はあわてて歌を差し出した、

あなたが、私の心を引こうが引くまいが、昔から私の心はあなたを慕い、頼りとしてきましたのに。

と詠んだけれども、男は帰ってしまった。
女はたいそう悲しくて、後を追いかけて行ったけれども、追いつくことができずに、清水のある所に倒れ伏してしまった。
そこにあった岩に、指の血で歌を書きつけた。

私がこんなに愛しているほどには私の愛にこたえずに離れ去ってしまった人を引き止めることが出来ずに、私の身は今、消え果ててしまうようだ。

と書いて、そこで死んでしまった。

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